道なき道を少しづつ
11月16日、福田かおる自民党東京18選挙区支部長を団長に、有志で、福島第一原発の現状を視察しました。
2011年3月11日に起きた東日本大震災とその後の津波でダメージを受け、廃炉に向けて作業が進められている福島第一原発ですが、視察をして実感したのは、廃炉の本格的作業はこれからだということ。
道なき道を少しづつ進んでいると感じました。
廃炉の本格的作業はこれからだとすると、この13年近く行ってきたのは、「水」の制御でした。
視察して、これまた実感したのは、汚染水の制御も一筋縄ではいかないことと、そうはいっても、一定の到達点に達した、ということでした。以下、具体的に述べたいと思います。
廃炉の見える化を目指して~廃炉資料館
集合場所のJR富岡駅から自動車で数分のところに、廃炉資料館があります。かつてはエネルギー館という施設でしたが、事故後の2018年に廃炉資料館としてリニューアルスタートしました。
廃炉の詳細について、ここで説明いただきました。この施設は、無料でどなたでも見学できる施設ですが、事前に予約をしてほしいと、東電のホームページに出ております。
廃炉資料館から第一原発へ
バスに乗り、原発に向かいました。
途中の景色は、たいへんさびしいものです。空き家も目立ちます。
施設入口には、協力企業の一覧がありました。
燃料デブリを冷やすための水だけではなかった、汚染水の発生源
実際に視察して率直に感じたのは、汚染水の発生源は「燃料デブリを冷やすための水だけではなかった」ということです。
燃料デブリを冷やすための水に加え、地下水や雨水が汚染水となってしまうのです。
これはどういうことかといいますと、地下水や雨水が原子炉建屋・タービン建屋といった建物の中に入り込み、汚染水と混じり合うことで、新たな汚染水が発生することになるからです。
汚染水の制御に取り組む
以下、具体的に汚染水をどのように制御しているかを、説明します。
汚染水を海に漏らさない
一番に気になるのは、汚染水が海に流入すること。
これを防ぐために地中深くに鋼鉄の壁を作り、遮断しています。(海側遮水壁)
雨水や地下水を燃料デブリに流入させないために
海側遮断壁でせき止められた地下水は、放置すると建屋に入り込むので、井戸を作りくみ上げています。(地下水ドレン)
視察の中でも、建屋の回りに「スカート」をはかせて雨水が入り込まないようにしたり、雨水が土壌浸透を防ぐための舗装、「陸側遮水壁」といって、地中に氷の壁を作って建屋を囲んでいるのを見ました。
こうして、できるだけ汚染源に水を近づけにようにしています。
汚染水の制御は一定の到達点に
汚染水は、対策前には1日に約540㎥発生していました。学校にある標準的なプールは約600㎥ですので、毎日プール1つ分発生していたことになります。
対策後は、約140㎥まで減らしました。さらに日量100㎥以下を目標にさまざまな対策を実施しており、汚染水制御の基本方針のひとつ「汚染源に水を近づけない」については、一定の到達点に達しております。
汚染源を取り除く~2011年6月にはセシウム除去を開始
汚染水から汚染源を取り除く。
これは、水と汚染源を分離し、より危険度の高いもの(汚染源)は、厳重に封じ込めることを意味しています。
汚染水のまま、厳重に封じ込めるのは、容積がたいへん大きいですから、当然コストがかかります。保管する場所も必要です。手間もかかります。コスト、そして、台風や地震などの天災のリスクも考えると、厳重に封じ込める必要のある汚染源は、なるべく容量の小さいものにしたほうが望ましいことになります。
このことに、今回の視察であらためて気がつきました。
事故発生から3か月後の2011年6月には、被ばくへの影響の大きいセシウムの除去を開始しました。分離されたセシウムは、別途厳重に封じ込められています。
その後、2013年3月、多核種除去設備(ALPS)により、62種類の放射性物質を浄化処理できるようになっています。
このようにして大多数の放射性物質を除去した結果、それぞれ海洋放出する場合の国の規制基準値を確実に下回ることができました。これを、ALPS処理水と言います。実際見せていただきましたが、透明の水でした。
ここで問題になるのはトリチウム。
ただひとつ、トリチウムについては、現時点の技術では除去できません。トリチウムについては、国の規制基準値を下回ることはできていません。
ALPS処理水の海洋放出~ゼロリスクは求めない
ALPS処理水は、報道等で多くの方がご存じのとおり、2023年8月24日から、海洋放出を開始しました。海水と混ぜ、希釈の上、海洋放出します。
というと、トリチウムを海洋放出して大丈夫なのかという疑念が出ますが、まず前提として、ゼロリスクは求めないことが大切と考えます。
他の放射性物質についても、国の規制基準値を確実に下回るようになっただけです。ゼロになったわけではありません。
それと同じで、トリチウムについても、海洋放出した時のリスクが十分低ければ、ゼロリスクでなくても良しと、私は考えます。
この前提で、視察で東電から受けた説明を書きます。
トリチウムは「水」として地球上に存在している
トリチウム(T)は、日本語で言うと「三重水素」。水素(H)の同位体と説明されます。水素にはない中性子があります。文学的表現になりますが、「見た目は水素だけど体重が重いもの」。なので、水素と酸素とくっついて、「水」のカタチになり、水の中で存在しています。性質も水とほぼ同じです。(普通の水→H₂O、トリチウムが含まれる水→HTO)
トリチウムは、宇宙線と大気が反応して、毎日大量発生
トリチウムは、宇宙から地球に降り注ぐ宇宙線と大気が反応して、毎日大量に発生しています。どのくらい発生しているかは、北海道大学の大木淳之教授の説明によると、以下の通りです。
自然由来による年間のトリチウム生成量が70 PBqとなります。ちなみに福島第一原発事故によって環境中に放出された量は0.1~0.5PBqとされています。現在、福島原発の施設内に2.6 PBq存在するといわれています。福島第一原発事故で放出されたトリチウム量よりも、年間地球上で作られる量のほうが30倍ほど多いことになります。(北海道大学のLASBOSより)
トリチウムから出る放射線は、紙を通過できない
トリチウムが放出する放射線はベータ線というものです。エネルギーが非常に弱いため、紙1枚を通過することができません。このことは、私たちの皮膚も通過できないことを意味します。したがって、いわゆる外部被ばくを心配する必要はありません。ただし、呼吸や飲食を通じて体の中に入った場合は、影響を受けます(内部被ばく)
トリチウムは生物濃縮しない
トリチウムが体内に入った場合、内部被ばくしますが、しかし、その場合でも、水と同じように排出し、生物濃縮は起きません。水を大量に飲めば、その分、尿として出ていく量も増えるからです。
仮に毎日大量にトリチウムを摂取したとしても、一定量以上は体内にとどまることはできず、摂取しなくなれば、次第に体外に排出されます。
ちなみに、体内にはいったトリチウムは10日程度で放射性物質の半分が体外に排出し、肉などと結合して体内にはいった場合も、多くは40日程度で排出されるそうです。
以上のことから、
トリチウムは、他の放射性物質と比べて、人体への影響は低いと言われております。
世界にも前例のない取り組み~燃料デブリの取り出し
さて、汚染水については、一定の到達点に達しましたが、肝心の燃料デブリの取り出しは、現在、取り出し工法の検討中です。
燃料デブリですが、事故発生後、非常用電源が失われたことで炉心を冷やすことができなくなり、この燃料が過熱、燃料等が溶融しました。その溶融した燃料等が冷えて固まったものを燃料デブリと言います。
燃料と燃料デブリ。元は同じものですが、取り出しの困難さは、全く違います。
燃料デブリは、ガレキにくっついた形であるようです。燃料デブリの形態も不明な点が多いうえに、ガレキという偶発的にできたものの上にくっついています。触れたらどうなるのか、まったく知見はありません。
燃料デブリのある原子炉格納容器内は放射線量が高いので、人が入っての作業ができません。すべて遠隔操作での作業になります。世界にも前例のない困難な取り組みです。
なので、危険をできるだけ回避するための事前の調査や実験を、今、やっているところと認識しました。